姫は王となる。
さっきまで悩んでいたことが頭から離れ、意識は風に向いた。
風が重傷を負って3日目ー…
老婆からは今日の朝まで、風の意識が戻っていないと報告を受けていた。
ずっと心配していた、ずっと気にしていた。
その風の意識が戻った。
「王様を治療院まで案内せよ」
「!」
後ろに立つ老婆が、警備兵にそう指示を出した。
老婆の言葉に驚いて振り返ると、微笑んだ老婆と目が合った。
「参りましょう、王様」
頭を下げそう言うと、歩くように促される。
「…そうだな」
涙が出そうになるのを堪え、治療院に向かって歩き出した。
まさか老婆が、そう言ってくれるとは思わなかった。
私が王位継承をした時点で、風との婚約は白紙にされた。
王族を抜けるという条件で、風との婚約を父様に許してもらえたが、私は王位を継いだ。
もう風との結婚が、実現することはない。
お互いが生まれ変わるまで、実現しない。
もう望んではいけない。
だから、私から風に会いに行くのは少し躊躇してしまった。
風の顔を見たら、私は王ではなくなってしまう。
けど、会いたいー…
そんな心情を察してくれたのか、老婆が先に言ってくれて良かった。