姫は王となる。
「…王様、風の元に参りましょう」
「!」
後ろに立つ老婆に声を掛けられ、意識が現実に向いた。
「…そうだな」
力が入っていた身体をふっと楽にし、そう返事をした。
「王様に来て頂いて、風もきっと喜びます。どうぞ、お入りください」
膝まついていた風のお母様が立ち上がり、治療院の部屋の扉を開けた。
「…ありがとう」
そして、ごめんなさい。
扉を持ち、立ったまま頭を下げる風のお母様の横を通り過ぎる時に、心の中で謝った。
王位を継承した時に、老婆に言われた言葉。
¨花蘭様はまだ、お若い上に女性でございます。女性で王位を継いだのは、今だかつて東国ではおりません。そのため、大臣達や国民の不安や不満も少なからずあるでしょう¨
¨先代の王様も、花蘭様が王位を継ぐとは思ってもなかったでしょう。ですから、王としての立ち振る舞いや職務など教えてこなかったでしょう。しかし、状況は変わってしまいました。王様と王子様がお亡くなりになってしまった今、本当でしたらお妃様に側で、王としての立ち振る舞いなどを教えていただければと思っておりましたが、北国もそこまで計算していたのかお妃様を人質に取りました¨
¨老婆である立場の私が言えるのは、王としての威厳だけは守ってください。花蘭様は王になられた。今まで通りの接し方ではいけません。それだけは、お守りください¨
大臣や国民に対する王位就任の挨拶の時に、老婆にそう言われた。
威厳というものが私にはよくわからなかったけど、とりあえず父様の言葉使いや立ち振る舞いなど思い出しながらやっている。
…それで、威厳が保たれているかはわからないけどー…