姫は王となる。
部屋の扉の前に立ち止まり、震える手を握った。
心が千切れるかと思った。
心が壊れるかと思った。
"王様!!"
風の叫ぶ声が、まだ耳に残っている。
「…王様」
「!」
部屋の外に出ると、老婆が心配そうな表情をして待っていた。
「…もう用はない。行くぞ」
そう言うと、老婆は戸惑いながらも頭を下げ、後ろに付いた。
数人の警備兵が私を囲み、数歩後ろには老婆が付き王室に向かって歩き出す。
誰も喋ることもなく、足音と警備兵の鎧が擦れる音だけが聞こえる。
「…さようなら、風…」
誰にも聞こえないように小さな声で、ボソッと出てしまった言葉。
…風、私はねー…
貴方が生きていてくれて、本当に良かったと思ったの。
父様よりも兄様よりも、風が生きていたということの方が私には大きい。
婚約は白紙になってしまったけど…
護衛の任務を解いてしまったけど…
風がどこかで生きているんだと思うと、私はそれだけで頑張れる。
だから、もう命を懸けて守ろうとしなくていい。
あんな思いは、もうしたくない。
さようなら、風ー…