姫は王となる。






「1時間ぐらいしたら、職務に戻る。それまで、誰も近づけるな」

「はっ」

自室まで来ると、扉の前に立つ警備兵にそう告げた。

「王様っ…」

老婆が何か言いたそうに声を掛けてきたが、聞こえないフリをして部屋の扉を閉めた。



パタンー


静かに閉じた、部屋の扉。



「…ふ…」



もう、限界だった。



一人になった自室に入った瞬間、涙がどっと溢れ出てきた。



「あっ…あぁ…」

扉の前で泣いてはいけないと思いながらも、その場で泣き崩れてしまった。



冷たい床に、温かい涙が流れ落ちる。


涙で揺れる床を見つめながら、自分の不甲斐無さと心の悲鳴が全身から飛び出す。




「どうして…私が…」


父様と兄様が殺されなければ、私は風と結婚していたのに。


「なんで…」

¨王の個人的な感情では?¨


個人的な感情で何が悪いのよ…


好きな男のことを心配して、何が悪いの?


愛した男のあんな姿を見てもまだ、命を懸けて私を守れというの?





意識がなくて血だらけの風の姿なんて、もう二度と見たくない。



「あぁー……」



死んでほしくない。


生きていてほしい。



もう、一緒にいることができなくてもー…







そう思うことは、王としていけないことですか?



父様…





王の威厳ってなんですか?








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