姫は王となる。
道という道がない森の中を歩き、30分後。
かなり遠回りになってしまったが、城から一番近い街に出れた。
城から近い街のためか、多くの人達が行き交い栄えているように見える。
小さい頃に一度だけ、街に出掛けたことがあった。
あの時は、風も一緒でー…
昔の思い出が脳裏を過り、首を振った。
今は、思い出に浸っている場合じゃない。
老婆や城の警備兵たちに見つかる前に、国境近くの村に行かなきゃ。
そう決意すると、頭に被ったスカーフをさっきよりも深く被り、行き交う人達に紛れ込んだ。
ガヤガヤ…
自分が王だということがバレないように、顔を隠しながら歩いていると、隣に並んだ二人の男の人達の会話が耳に入ってきた。
「おい、あっちの方で喧嘩があったらしいぞ」
「またかよ…最近、皆ピリピリしてるよな。先代の王様が亡くなってから」
ドキン。
¨先代の王様が亡くなってから¨
その言葉に、心臓がドキンと跳ねた。
さっきよりも息を潜め、二人の男の人の会話に耳を澄ます。
「今の王様は、先代の娘だろ?確か、護衛長の息子と結婚するはずだった」
ドクン、ドクン。
風との婚約の話も、国民たちは知っていた。
「あぁ。本当は、兄の方が王位を継ぐはずだった。けど、先代の王様と一緒に亡くなられてしまったからな。だから、王位を継ぐはずがなかった花蘭様が継いだんだ」
「王位継承の挨拶でチラッと見たが、綺麗なお方だよな。姫様としてはピッタリだけど、王様としては頼りなさそうだよな」
…頼り…なさそう。
直で聞く国民の声に、歩いていた足が止まりそうになる。
「今だって、お妃様は北国に人質に取られてしまっているって噂だしな。先代の王様と王子様を襲ったのも、北国って噂だし…このままだと北国に攻め込まれて、東国はなくなってしまうかもしれないな」
「おい、やめろよ。そんな話。ただでさえ皆、この国の先行きを不安がってピリピリしてるのに。このままだと北国に攻め込まれる前に、国内で暴動が起きるんじゃないかって思ってる奴らもいるのにさ」
…国内で、暴動…
男性たちの最後の会話を聞いて、とうとう足が止まってしまった。