姫は王となる。
しばしの静寂の後、風が静かに口を開いた。
「花蘭様…いえ、王様。私は王族ではないので、この国を背負う重圧がどれだけ大変なことなのか、わかりません。しかし長年、花蘭様に仕えさせて頂いて感じたことは、やはり貴方様は王位を継承する人なのです」
風は頭を上げ、差し出していた剣を腰に差した。
「先代の王様は、先代の王様です。花蘭様は、花蘭様です。王族としての品格、振る舞い、そして誰に対しても優しく接されるお姿。その優しさはきっと、国民たちにも届くでしょう 」
膝まついたまま、笑顔で見上げてそう言った風。
「…」
自ら手放したはずなのにー…
「今はただ突然、先代の王様が亡くなられて大臣たちや国民も戸惑っているだけでしょう。それが落ち着けば、今後のやるべきことも、北国に人質に取られているお妃様のことも解決します」
王位を継承して、風との婚約も白紙になったのにー…
「だから、焦らなくても大丈夫ですよ。花蘭様は、花蘭様らしい王としてこの国を守っていけばいいのだと、私は思っています」
私は、風が側にいて欲しいと思ってしまう。
風の言葉がこんなに心に響くなら、手放さなければ良かった。
けど、王として風を側に置いておくのは…
怖い。