姫は王となる。
あの返事の仕方は、納得できていないんだろうなー…
そんなことを思いながら、風が出て行った扉の方向を見ているとー…
「花蘭様、風の気持ちもわかって頂けないでしょうか?」
久しぶりに名前で呼ばれ、驚いて老婆がいる方向に振り向いた。
「花蘭様の下の者に対する想い、国民に対する想い、それはとても嬉しいです。しかし、風にとっては花蘭様はただ一人。勿論、護衛長として花蘭様を御守り致します。しかし、王様と王子様のことのようなことはあってはならないのです」
膝まついていた老婆は立ち上がり、真剣な表情で話す。
「先日、花蘭様が一人で国境に行かれた時、私がすぐに頼ったのは風でした。王命が解かれたとはいえ、風以外に花蘭様を見つけ出し、助け出せる者はいないと思ったからです」
何故、風が助けに来たのかと思ってはいたが…そんな理由でー…
「ご実家で静養中の風に伝えると、血相を変えて"王命を破った罰は、後で受ける。今は、花蘭様のお命の方が大切だ"と言い、王命を破るということが、どんな罪深いことなのかを知りながら、花蘭様を探しに行かれました」
あの時、風は王命を破った罰を受けるために、自ら剣を差し出した。
あれは、本当に罪を受けようとしていたー…
ドクン。
「…っ」
「自分の命よりも大切に想われている花蘭様が、自ら危険な場所に赴こうとしている風の想いを、知っていて欲しいです。…私が言いたいのは、それだけです。失礼致しました」
話を終えると、老婆は深く頭を下げー…
「どうかご無事で…城で、お帰りをお待ちしております」
そう言った老婆の肩は、少し震えているように見えた。
「…行ってくる」
小さな声でそう言うと、老婆に背を向け扉に向かって歩き出す。