姫は王となる。
「北国の王。ここは、東国の領土ですよ。不法に入国されては困ります」
風が剣を握ったまま、北国の王に向かって言った。
「不法入国か…ははっ。そちらの国土大臣の許可は頂いているんですけどね」
国土大臣!?
今、行方を追っているー…
「その国土大臣は、数日前から行方不明なんです。どこで許可を頂いたのか、教えて頂けないでしょうか?」
「さぁ…どこだったかな?」
鼻で笑いながら、北国の王は答えた。
「…っ」
そんな北国の王の態度を見て、さらに怒りが増してくる。
"王様、どうか怒りを収めて下さい。今、勝てる相手ではございません"
「!」
風が小さな声でそう言った。
勝てる相手ではないー…
「花蘭女王様、お母様は元気にやってますよ」
「!」
「まぁ、いつまで元気にいられるかわかりませんけどね」
"はははっ"と高笑いしながら、北国の王は言った。
「っ…」
無意識に風の服を握っていた手に、力が入る。
こんな奴にー…
こんな酷い奴にー…
こんな腹立たしい奴に、父様や兄様や村人たちを殺されたんだと思うと、勝てないのがわかっていてもこの場で殺してやりたくなる。