お日様のとなり

「どれ、ちょっと着せてやろうか」

「え、おばあちゃん着付け出来るの?」

「何言ってんだい。わたしらの頃はみんな自分で着てたんだよ」

「そうなんだ。すごいね」

慣れた手付きで浴衣を広げるおばあちゃんを目を丸くして見つめていると。

「なんだい。今日はいやに明るいねえ」

私の身体に浴衣を合わせながら、ニヤニヤした顔をされた。


あっという間に着付けが終わって、全身鏡の前に立つ。

紺色の浴衣に淡いベージュっぽい色の帯が大人っぽくて、まるで別人のようだった。

「気に入ったかい?」

「ありがとう、おばあちゃん。すごく気に入った。これ何ていうお花?」

「それは牡丹の花だよ」

「へえ、牡丹かぁ」

くるくると回って浴衣の柄を観察していると、おばあちゃんは後ろで嬉しそうに微笑む。

「わたしもそれを着て、おじいさんと一緒に花火を見に行ったね」

「おじいちゃんと?」

そうなんだ……。

おじいちゃん、会ったことはないけれど、仏間に飾られた写真は優しそうな顔をしているのを知っている。

毎日仏壇に欠かさず手を合わすおばあちゃん。

一緒に暮らす私も、それが自然と習慣になっていた。

おじいちゃんとおばあちゃん、きっと仲が良かったんだろうな。

< 103 / 207 >

この作品をシェア

pagetop