お日様のとなり

イチくんと一緒に家を出て、駅までの道を並んで歩いた。

制服でもなく、私服でもなく、2人ともが浴衣姿っていうのがくすぐったくて。

私がさっきからもう何度も隣を盗み見ているのは内緒だ。

浴衣姿なのに、首からカメラを掛けているのはとてもアンバランスな気もするけど、イチくんらしいなと思った。

カラン、コロン。

静かな住宅地、小気味良い下駄の音が耳に響く。

家を出てからまだまともな会話をしていないけれど、イチくんは何を考えているんだろう。

腕を組みながら空を見上げるイチくんに倣って、私も顔を真上に上げる。

青色でもなく、オレンジ色ともまた違う。
それらが混じって紫色、とも一言では言い難い。

けれどどこかノスタルジックで、素敵な夕焼け空だった。

それなのに、時々胸を締め付けるような苦しい気持ちになるのは何でだろう。

私は前にも、こんな夕焼け空をどこかで見たことがある気がする。

「綺麗だよね、夕焼けの空って」

「……うん、そうだね」

考え事をしていたせいで、イチくんの言葉に返事をするのが少し遅くなってしまった。

せっかく話しかけてくれたのに、嫌な感じになっていないか心配だ。

楽しみにしていた花火大会。

良い思い出になるように、沈んだ気持ちで過ごしたくはない。

気分を変えようと、巾着からスマホを取り出して、一枚収める。

スマホで撮った写真も十分綺麗に映っているけれど、私はやっぱりファインダーを覗き込んでシャッターを切るあの感覚が好きだ。

いつだって部活のカメラを借りられるわけじゃないから、今はこれで我慢するしかない。

お金を貯めて、いつか自分のカメラを持てる日がくると良いなと思った。

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