お日様のとなり
スマホから顔を上げると、隣からイチくんの視線を感じて、ゆっくりとそちらに顔を向ける。
バチッと合った視線を先に逸らしたのはイチくんで、そんなことは珍しいから首を傾げた。
慌ててまた顔をこちらに向けたイチくんだったけど、様子が変なのでじっと見つめていると、視線を泳がせてついには下を向かれた。
「はあ、困る……」
何が困ったというんだろう。
ひょっとして、ここまで来て急に後悔し始めたって意味だろうか。
そりゃそうだ。
他に大切な人がいるのに、私とこうやって花火大会に向かっている。
しかもお揃いで浴衣なんか着て……。
今はそれほど周りに人はいないけど、学校の最寄り駅に着いたらそれこそ知り合いが山のようにいるのだろう。
人気者のイチくんだから尚更。
もしもそこで、イチくんがあの写真の女の子を見つけたら、イチくんはそっちへ行ってしまうのだろうか……。
そんなの、嫌だな……。
なんて、私が嫌がれる権利なんてどこにもないんだけど。
歩いていると、前から車が走ってきた。
車とぶつからないように、イチくんが少し内側に寄る。
その時そっと手が触れて、ドキッとしたけれど、それ以上の反応を見せたのはイチくんだった。
イチくん自身も自分の反応に相当驚いたのか、「あー、もう……」と嘆きにも似た声を出して、片手で顔を覆った。