お日様のとなり

おかしいな……。

イチくんの声がしたはずなのに、イチくんがいない。

キョロキョロしても、周りに人が多すぎて、忙しなく歩く様子に目が回りそう。

すると。

後ろから腕を掴まれて、ぐいっと引き寄せられる。

「こっちだよ」

視界に飛び込むイチくんの姿に、ホッとしたのも束の間。

「行くよ」

温もりが腕から手に移動する。

「イチくん……」

手、手が……。

「ん?」

たくさん人がいる中で手を握られたことに、思わず動揺してしまう私。

イチくんは不思議そうに振り返って首を傾げるけれど、そのまま歩き続けている。

すっかり夢から覚めたと思っていたのに、やっぱりまだ夢の中みたいだ。

私より少し温かいイチくんの手の温度。

手から伝わって、なんだか心まで温かくなってくる気がした。


やっとのことで駅を抜けると、人混みは少しだけ解消されて、涼しい風が頬を掠める。

それが心地よく感じるのは、夏の暑さのせいなのか、それとも顔が熱いせいなのか。

駅の前の広場には、待ち合わせをする人で溢れていて賑やかだ。

「おー、イチじゃん」

向こうから誰かがイチくんの名前を呼ぶ。

繋いだ手はどちらからともなく、パッと離れてしまった。

< 113 / 207 >

この作品をシェア

pagetop