お日様のとなり
おかしいな……。
イチくんの声がしたはずなのに、イチくんがいない。
キョロキョロしても、周りに人が多すぎて、忙しなく歩く様子に目が回りそう。
すると。
後ろから腕を掴まれて、ぐいっと引き寄せられる。
「こっちだよ」
視界に飛び込むイチくんの姿に、ホッとしたのも束の間。
「行くよ」
温もりが腕から手に移動する。
「イチくん……」
手、手が……。
「ん?」
たくさん人がいる中で手を握られたことに、思わず動揺してしまう私。
イチくんは不思議そうに振り返って首を傾げるけれど、そのまま歩き続けている。
すっかり夢から覚めたと思っていたのに、やっぱりまだ夢の中みたいだ。
私より少し温かいイチくんの手の温度。
手から伝わって、なんだか心まで温かくなってくる気がした。
やっとのことで駅を抜けると、人混みは少しだけ解消されて、涼しい風が頬を掠める。
それが心地よく感じるのは、夏の暑さのせいなのか、それとも顔が熱いせいなのか。
駅の前の広場には、待ち合わせをする人で溢れていて賑やかだ。
「おー、イチじゃん」
向こうから誰かがイチくんの名前を呼ぶ。
繋いだ手はどちらからともなく、パッと離れてしまった。