お日様のとなり

「そういうわけじゃなくて……」

小さな無数の金魚たち。

これだけいれば決して広いとは言えない水槽の中で、あちこち方向を変えて絶えず泳ぎ続けている。

その様子は可愛いのだけど……。

「お父さん、ありがとう!」

「大事に飼うんだぞ」

「うん!わーいわーい!」

小学生くらいの男の子とそのお父さんが私の横を通り過ぎていく。

男の子の手には透明な袋。
その中にはわずかな水と小さな金魚が一匹。

ああやって家に連れて帰るのか。

喜びで溢れている子どもに対して、金魚は本当に幸せなのかな。

無理やり狭い所に入れられて、全く知らない世界に連れていかれる。

あれはまるで……私みたい。

人混みの中に消えていく親子の後ろ姿をじっと眺めていると、「みあ……?」イチくんの声が聞こえて振り返る。

するとそのまま手を引かれて。

「おじさん、2人分ね」

「あいよ」

お店の人にイチくんが小銭を手渡した。

代わりにくれたのは、紙の張られた網と器が2つずつ。

「ほら、ここにこうやって少しだけ水を入れるんだよ」

「あ、私は……」

やるなんて言ってないのに……。

楽しそうなイチくんの横顔に一つ息を吐いて、隣にしゃがみ込んでみる。

水面を見つめると、ちょろちょろと金魚たちが集まってきた。


< 120 / 207 >

この作品をシェア

pagetop