お日様のとなり

苑実と別れたあとも、苑実に聞いたことがずっと頭の中をぐるぐるとしていた。

『みあは無表情なんかじゃないよ。そりゃ確かに少し前までは表情が固かったけど、最近はそうじゃない。近くで見てきたあたしにはちゃんと分かる。悲しいのも、嬉しいのも、困ってるのも、照れてるのも、ちゃんと分かるんだよ。だからみあがあの人に無表情のくせにって言われてるの、あたし許せなかった』

……知らなかった。

自分の感情がそんなに表に出ているなんて。

トイレに寄って、鏡の前で自分の顔に触れてみる。

目の前にはやっぱり表情のない真顔の私……。

この顔が、どんな風になってるっていうの?

『あの人に似た顔で笑わないで!』

自分の顔に昔のお母さんの姿が重なる。

怖くなって、私は鏡から身体を突き放した。

両腕でそっと自分の身体を抱きしめる。

震えているのは寒いからじゃない。

怖いんだ……。

だって、私は、笑うことが許されない。

笑っていたら、帰ってきてくれないんだもん。

「やめて……やめてよ……」

ずるずると壁にもたれたままうずくまる。

そんな中、頭に浮かぶのはイチくんで……。

どうして今イチくんの顔が浮かぶの……?

大好きだったはずのイチくんの笑顔。

それなのに、心が押しつぶされそうになって、息が出来なくなる。

嫌だ、嫌だよ……。

「助けて……」

一人ぼっちのトイレの中でポツリと吐き出した悲鳴は、きっと誰にも届くことはないんだろう……。




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