お日様のとなり

インターバルが終わり、最終クォーターが始まる。

「ここからは終始カメラ構えておいた方がいいよ」

隣に並んだイチくんが囁くように言った。

「一生懸命な人って、いい被写体になるんだ」

「……」

分かった気がする。

どうしてイチくんが色々な部活に顔を出すのか。

私はファインダーから目を逸らすことなく、小さく頷く。

それからしばらく、レンズ越しの世界に心を没頭させた。

初めてカメラを構えた日のことを思い出す。

カメラの世界って不思議だった。

たった数センチの切り取られた世界なのに、そのどれもにドラマがある。

同じ場所に立って同じ空気を感じて撮った写真は、見てみると動いていないはずなのに、音や声が鮮明に浮かび上がってくる気さえする。

いつかこの写真を見た時も、私は今日のことを思い出すのだろうか。

あの時も、どんな時も、私がカメラを構える傍らにはイチくんがいてくれた。

切り取られた世界の片隅には、いつだってイチくんの面影が残っている。

そっか。

そうなんだ。

感情が表に出るようになったのは、イチくんが新しい世界に連れ出してくれたから。

それなら、私はこれ以上、この世界の中にいるわけにはいかない。

このままだと、失ってしまう。

ずっと信じてきたものが、なくなってしまう。

ツ、と頬を伝う何か。

それと一緒に、感情すらも流れて消えてくれればいい。

大丈夫。

心の箱はまだ閉じたまま。

そのまま水の底に深く沈んでしまえば、自分でももう開けることは出来ないから。

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