お日様のとなり

予定されていた試合が全て終わり、カメラを返しに部室へ向かった。

イチくんは女子バスケ部の人たちに囲まれていたから、そのまま体育館に置いてきてしまった。

その方が都合が良いから、気付かれないようにそっと出て来たんだけど。

持ったままになっていた部室の鍵を使って、ガラガラと古びた扉に手を掛ける。

無人の部屋はしんとしているけれど、中に入って目を閉じると瞼に浮かんでくる幸せな光景。

真ん中の机でパソコンを開いているのは森園先輩。

その斜め向かいに座っているのは真央先輩。

そして部屋の一番奥にはイチくんがいて。

たった1カ月だったけど、ここに来るのはとても心地が良かった。

こうなる前に、もっと早くに気が付くべきだったんだ。

棚の中に一眼レフのカメラを戻す。

隣には真央先輩が愛用するフィルムカメラが置いてあって、イチくんが熱弁していた時のことを思い出しながら、指先をボディに這わせてみる。

イチくんが好きだというフィルムカメラでも、一度何か撮ってみたかったな……。

デジタルとはやっぱり見え方が違うのだろうか。

試しに構えてみるけど、「そうじゃないよ」ってきっとイチくんが口を挟むんだ。

それで夢中になって周りが見えなくなったイチくんとの距離に私が動揺して、真央先輩が冗談を言って、それを見ながら森園先輩が笑うんだ。

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