お日様のとなり
下駄箱で靴を履き替えて、昇降口に向かう。
ふと顔を上げると、幻覚が見えた。
いつも私よりもほんの少し早く昇降口の手前で私を待っていてくれるイチくんの幻覚が。
目をこすると次の瞬間にはイチくんの姿は消えていた。
……私は何を期待しているんだろうか。
下を向いて足を進める。
すると後ろから呼び止められた。
「みあ」
ぴくりと心臓が跳ねる。
そこにいたのは。
「大蔵……?」
既に制服に着替えていた大蔵は大きなリュックを後ろに背負って、ポケットに手を突っ込んだままぶっきら棒な顔をしてこちらに近付いた。
「遅え。試合終わってからどんだけ経ってると思ってんだ」
「もしかして、待ってたの?」
一緒に帰る約束なんてしてたっけ。
そんなはずはない。
私と大蔵は高校に入ってから、一度も一緒に登下校をしたことがないんだ。
たぶん、今だって偶然会っただけ。
大蔵が帰るタイミングに、ちょうど私がいただけだ。
そう思っていたのに。
「そうだよ」
大蔵の言葉に目を丸くする。
あまりの素直さにあっけに取られていると、大蔵は私の視線をワザと外させるようにくしゃくしゃと頭を撫でた。
「……待ってちゃ悪いかよ」
「そんなこと、言ってない」
「そうか。さっさと行くぞ」
「行くってどこへ?」
「は?帰るに決まってんだろ。早く来い、ノロマ」