お日様のとなり

「行くぞ」

大蔵がそう言ったのと同時に、腕を引かれて歩き出す。

私はその手を拒むことも振り返ることもせず、ただ身を任せて足を前にだけ動かし続けた。

正門が近づいてくる。

その時、ちょうど学校に向かって来ていた橋本さんとすれ違った。

一瞬だけ合った目はすぐに逸らされて、私と大蔵を交互に見た後、橋本さんの視線は後ろにいたイチくんに向けられた。

走り出す足音はきっと、橋本さんのもの。

「……っ」

……これで良い。

きっと、これで良かったんだ。

いつも一つに束ねられている橋本さんの髪。

だけどその時は下ろされていて、頭に浮かんだ夕暮れの写真の女の子と一致した。

あの写真の女の子は、橋本さんだったんだよね。

悲しいくらいにピタリと当て嵌ったピース。

心の中で少しだけ笑えた気がした。

バカだな、私……。



その後、どうやって電車に乗ったのかよく覚えていない。

気付いた時には家の近くの道をとぼとぼと歩いていた。

繋がれたままの手が視界に入って、斜め前を歩く大蔵を見上げた。

それから数歩歩いて、大蔵がゆっくりとその足を止める。

振り返った大蔵は、見慣れたいつものぶっきら棒な顔をして、私を見下ろしている。

そういえば、大蔵はなんであんな事を言ったんだろう。

私のことを何も知らないって……。

あれは、どういう意味だったんだろう。

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