お日様のとなり
「お前はさ、」
大蔵がゆっくりと口を開いた。
私は、風にさらわれて頬に張り付いた髪を耳に掛ける。
陽が沈んだばかりの空はまだどこか明るくて、湿っぽいけれど昼間よりはだいぶ暑さの和らいだ風が、私と大蔵の微妙な距離の間を通り抜けていく。
どこからか、ひぐらしの鳴く声が聞こえてきた。
「ガキの頃からちっとも笑わなくて、俺がバカやっても表情一つ変えなくて、こいつロボットなんじゃねーのって本気で思ってた」
「なにそれ……」
そういえば、子どもの頃の大蔵ってかなりやんちゃで、近所の大きな犬に毎日ちょっかいかけに行って手を噛まれかけたり、高い木に登ってカブトムシを捕まえたけど、下りるのに失敗して派手に落ちてきたり。
めちゃくちゃな事ばっかりだった。
そのめちゃくちゃな事に、私は毎日のように連れ回されていた。
手を引かれて、自分の出せるスピードよりも遥かに早い速度で走らされて息を切らした。
知らない町まで歩いて迷子になった。
遊びに夢中でいつの間にか真っ暗になってた日には、公園で生まれて初めて蛍を見た。
たくさんの思い出の中には、大蔵のいろんな表情があって、私はそれを見るのが好きだった。
表情に出ない自分の気持ちを、大蔵が代わりに全部映し出していてくれていた気分になっていた。
だから、それで十分だったんだ。