お日様のとなり
大蔵の顔色を窺いながら、わざと明るく振る舞う様子は、まるで蛇に睨まれたカエルだ。
「……なんだよ」
じっと見上げていると、大蔵がちらと視線を合わせる。
「大蔵、変わってないね」
「あ?」
「私がバカにされてるの見たら絶対ああやって怒ってくれるの。昔と同じ」
小さい頃に比べると、迫力は何十倍にも増しているけど。
それを言ったら怒られそうだ。
「変わらねえのはお前も同じだろ」
「……うん、そうだね」
変わらない。
そう決めたのは私。
「無理に変わろうとする必要なんかねえよ」
俯けた頭にポンッと重く圧し掛かる大蔵の手の平。
大丈夫だと言ってくれているみたいな、優しい重みが私の心を少し軽くしてくれる。
「私、大蔵に助けてもらってばっかりだね」
「アホ、んな顔すんな。こっちは好きでやってんだから」
……また、好きって言った。
でも今のは、夏休みに言われたのとは違う気がする。
好きって何だろう……。
「大蔵、あのね」
「ヤベ、予鈴」
廊下に響くチャイムの音が知らせるのは、テスト開始10分前。
私と大蔵は走ってお互いのクラスに向かう。
好きの意味を聞こうとしたのに、聞けなかった。