お日様のとなり
「おい、みあ」
「え……?」
また、名前を呼ばれる。
でもこの声は……。
声の主の足音が近づいてくると、それは私の後ろでぴたりと止んだ。
「は?なんで大蔵がうちのクラス来んのよ。ひょっとしてあたしを迎えに来てくれたとか?」
「んなわけねーだろ。テストで頭やられたか?」
「失礼なやつ!もうっ、あたし先行くから。この万年筋肉バスケオタク!」
ぷーっと頬を膨らませて苑実が教室を飛び出して行く。
その姿を目で追うこともなく、全く気にも留めない様子の大蔵は私の腕を引くと「行くぞ」と教室のドアに向かって歩き始めた。
「ちょ、たいぞ……っ」
ダメだよ。
だってそっちにはイチくんがいるのに。
急速に近づいてくるイチくんの姿に私は顔を下に向ける。
すれ違う瞬間にパシッと反対側の腕を掴まれて、私の身体が制止する。
それでも顔が上げられない私には、イチくんがどんな表情をしているのか見えない。
「今日は、部活来る?」
久しぶりに聞いたイチくんの声。
それだけで、心臓が震える。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、壊れてしまいそうになる。
なんて、自分勝手なんだろう。
「悪いけど、俺の方が先約だから」
大蔵が言うと、イチくんの手の力は緩まって、私の腕はストンと落ちる。
イチくんの言葉に返事が出来ないまま、歩き出す大蔵について行く私。
すれ違ってからしばらくして振り返ってみたけれど、もうそこにイチくんの姿はなくなっていた。