お日様のとなり
「お前らほんと仲いいよなぁ」
イチくんの隣を歩く友達のそんな声も聞こえて、耳を塞ぎたくなった。
そして、すれ違う。
下を向く私に、イチくんは気が付いただろうか。
さっきからずっと心臓は大声を出しているというのに、私の口は何も声を発しない。
言葉にしなければ伝わらないことは分かっているはずなのに。
「ねえ、みあ。今さ」
苑実が何か言いかけたその時。
「みあ」
名前を呼ぶ声にびくりと、身体が痛いくらいに反応してしまう。
振り返ると、イチくんが私の後ろに立っていた。
嬉しいのに、素直に喜べない。
イチくんの後ろでは、橋本さんが眉根を寄せてこちらを見ていたから。
やっぱり、橋本さんはイチくんのこと好きなんだ……。
自分でも気づいたばかりの気持ちが橋本さんにバレているとは思えないけれど、なんだか監視されているみたいで、なんとなくイチくんとも目を合わせづらい。
一度上げた視線を自分からまた落とした。
イチくんが小さく溜め息を吐く声が聞こえて、ズキンと胸が変な音を立てた。
「これ、落とした」
「……ありがとう」
イチくんが拾って渡してくれたのは生徒手帳だった。
普段は滅多に使うことはないけれど、抜き打ちで風紀検査がある時に必要だから、いつもスカートのポケットに入れっぱなしにしている。
今まで一度も落としたことなんてなかったのに、いつの間に落としたんだろう。
交わした言葉はそれだけで、イチくんはすぐに背中を向けて友達が待つ方へ歩いて行ってしまった。
「みあ、安藤伊智と何かあったの?」
心配そうな瞳を向ける苑実に、私は首を横に振る。
「何でもないよ。早く購買行こ」
そして、拾ってくれた生徒手帳を握りしめて、私も踵を返した。