お日様のとなり
褒められたタコの絵を指でなぞって、笑って褒めてくれた女の子の顔を思い出す。
笑いかけてもらうのって、嬉しい。
私が笑うことで、誰かをそんな気持ちにさせることって出来るのだろうか。
昔はそうだった気がする。
私が笑えばお父さんが笑って、お母さんも笑ってくれた。
お父さんがいなくなってからも、元気のなくなったお母さんに笑ってほしくて。でもどうしたら良いかなんてわからなくて、必死に笑ってた。
刺すような痛みが走って、ぎゅっと胸の辺りを掴む。
「……あれ?」
違和感を感じて、ブレザーの胸ポケットに触れた。
そういえばイチくんに拾ってもらった生徒手帳、ここに入れたんだっけ。
スカートのポケットに入れ直そうとしたけれど、あるはずのないゴツゴツとした感触に首を傾げる。
「……なんで?」
半信半疑で取り出してみると、手の中には生徒手帳が2つになった。
一つはイチくんが拾ってくれたもの。
じゃあ、もう一つは……?
その時、あるひとつの可能性が頭を過ぎって、震える指先で手帳の中を開いてみた。
「これって……」
持ち主の名前を見て自分の予想が正しかったことが分かると、激しい動揺に襲われて頭がクラクラした。
うそ……。
なんで……?
落としたと言ってイチくんが手渡してくれたのは、自分の生徒手帳だった。
私のは最初から、落としてなんかいなかったんだ。
どうして、そんなことを……?