お日様のとなり
苑実の口から初めて恋の話を聞いて、私は静かに頷く。
「でもさ、友達が恋してるの近くで見てたら、ああ良いなーって思ったんだよね」
はにかむように笑う苑実はとても可愛い。
もしも苑実が誰かに恋をする日がきたら、私は出来る限りの応援をしてあげたいと思った。
お昼前になって、交代の時間がきた。
廊下で苑実とパンフレットを開きながら、行きたい所を探す。
「チョコバナナでしょ、たこ焼きでしょ、あとフライドポテトは外せないよね!」
「食べ物ばっかだね」
「あ、ほんとだ。みあはどこか行きたいところある?」
「私は……」
パンフレットの地図に視線を這わせていると、目の前で誰かが立ち止まって、ふと顔を上げた。
視界に飛び込んできた人物にはっと息を呑む。
「あ、安藤伊智じゃん。なにやってんの?」
「呼び込みだよ。ほらこれ、見ればわかるでしょ」
言いながら、肩に担いでいた大きな看板を重たそうに下ろしたイチくん。
イチくんのクラスはハワイアン喫茶というお店をやっているらしい。
イチくんは苑実に向けていた視線をゆっくりと横にずらして私を見ると、微笑んだ。
「良かったら来てよ。サービスするし」
「……うん」
そう言うと、イチくんは私たちを通り過ぎて人混みの中に入ると、そのまま見えなくなってしまった。