お日様のとなり
「い、イチくん……!あの、ベルトを外したいので一度手を止めてほしいのだけど」
「いーよ、もう終わるから。そのままじっとしてて」
……と、言われましても。
こめかみに感じるくすぐったさは、イチくんの前髪。
「鼻息荒いよ」と言われるのが怖くて、上手く息が出来ない。
たった数十秒の出来事が、まるで何時間もかかったように感じた。
「出来た。ちょっと構えてみて」
酸素の薄い世界から解放されて、水を得た魚のように一気に息を吸い込む私。
言われた通りカメラを構えてみる。
「あ、違う。こっちの手はここに回した方が安定するから」
言いながら、イチくんの手が後ろに回って私の手の上に添わせた。
せっかく息を整えたのに、これではさっきよりも近いじゃないか。
近距離というより、もはやゼロ距離。
視線をちょっと横にずらしただけでイチくんの顔が見えて、すかさず目を逸らした。
イチくんって、誰とでもこの距離感なんだろうか。
これでは、勘違いしてしまう女の子が多いのも頷ける。
かと言って私が忠告出来るような身分でもないのだけれど。
とりあえず、今はカメラに意識を集中させようと再びファインダーに目を向けてみると。