お日様のとなり
イチくんの問いかけに頷いて答える。
「行こうかなって、ちょうど今考えてたの」
そっか。
イチくんも同じこと考えていたのかな。
「それは、誰と?」
「誰と?」
そこまでは考えていなかった。
花火大会は一人で行くものではないらしい。
そういえば苑実が、バスケ部の練習後に観に行くのが毎年の恒例になっているのだと言っていた気がする。
同じことを考えていたのなら、イチくんを誘ってみても良いのだろうか……?
それともイチくんのことだから、すでに相手が決まっているのかもしれない。
でも、叶うなら、イチくんと一緒に花火が見られると良いなと思う。
どうしてそう思うのかまでは、まだ分からないけれど。
漠然と、自然と、今はそう思うのだ。
知らないこと、分からないこと。
それらを真央先輩が言った通り、これから知っていくことが幸福であると思いたい。
「じゃあ、俺と」
イチくんが何か言いかけたその時。
「イッチー線香対決しよ!」
真央先輩がやって来て、問答無用でイチくんの腕を引っ張って行く。
「真央先輩のタイミングって、ワザとですよね……」
「は?何言ってんの?とにかく負けた方は帰りの荷物持ち決定だからね!」
眉間に皺を寄せるイチくんに、何のことだと目を丸くする真央先輩。
隣で微笑んでいる森園先輩だけは、そのワケが分かっているように見えた。
言われた通り線香花火に参加するイチくんの横顔は、少し拗ねたようにも見えるけど。
「挑んできたからには無礼講ってことで良いですよね」
やるからには本気ですからと、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべた。
笑い声が響く砂浜の隣で、心地よさそうに月明かりが揺らめく海はさっきよりも輝いていて、不思議ともう寂し気には感じなかった。