お日様のとなり
下駄箱の前で靴を履き替えると、昇降口で私を待ってくれているイチくんを見つける。
私のためにイチくんがそこにいる。そのことに心がほわっと温かくなるのだけど。
目が合う度に「大丈夫?」と心配されているような気がして、申し訳なくなる。
2つの相反した気持ちが混ざりあって、一緒にいられることを素直に喜べないのが本当に残念だ。
昇降口を抜けると、正門に見覚えのある女の子が立っていた。
あれは、橋本さんだ……。
橋本さんはこちらに顔を向けると、一瞬嬉しそうな顔をして何か言いかけたけど。
イチくんの後ろにいた私に気付くと、少し表情を曇らせたように見えた。
「イチ、今帰り?今日は部室に顔出さないんだ」
「あー、うん。今日は帰るよ」
「そっか」と、いつもより元気の少ない橋本さんはちらりと私に視線を寄せて、眉を下げた。
「帰るって、垣谷さんと一緒に?」
「そうだけど」
「じゃあ、駅まであたしも一緒に帰ってもいい?」
イチくんと話していた橋本さんだけど、最後のは私に対して向けられた言葉な気がして、「いいよ」と口を動かそうとした。
そしたら。
「今日はダメだよ」
イチくんの声に、それは言葉になることはなかった。
「え、何で……?」
苦笑いする橋本さんに「今日はダメ」と念押すイチくんの声。
そんな風に言われたら、何も言えなくなるんじゃないのかな。