お日様のとなり
私の不安は的中した。
「わかった」と言った橋本さんの語尾は確かに震えていて、それに気が付いたくせに私は何も言うことが出来ず、正門を飛び出した彼女の後ろ姿が小さくなるのを黙って見つめた。
「行こ」
何事もなかったように歩き出すイチくん。
私は素直について行く気にはなれなくて。
「イチくん……」
控えめにその背中に声をかけてみれば、「ん?」と優しい声で振り返る。
「本当に良かったの?」
「なにが?」
「橋本さんの声、震えてたように聞こえた」
私なら大丈夫だから、橋本さんのことを追いかけるべきなんじゃないかと思う。
イチくんは橋本さんがいなくなった道を一目見て、また、私の方に視線を戻した。
「あいつを追いかけて、俺はどうしたらいい?」
「それは……」
「それでもし、みあの身に何かあったら俺、それこそ後悔する」
「でも」
「ほら、帰ろ」
私の話を最後まで聞こうとはせず、イチくんは帰りを急かす。
そして、痺れを切らしたように動けずにいる私の手を掬い上げて握ると駅に向かって歩き始める。
手を引かれて、私の足はやっとのことで動き出した。
イチくんが歩く少し後ろを歩く私は、まるで親に手を引かれる子どもみたいだった。
前を向いたままのイチくんが、ぶっきらぼうな声を出す。
「みあは、俺が誰にでも優しくしてるように見えてる?」