お日様のとなり

イチくんは改札をくぐることなく、そのまま私が乗る電車に乗り込んだ。

扉の前で立ち止まり目を見張る私に「なにやってんの?」と顔を顰めるけれど、それは私のセリフだと大きな声で言ってやりたい。

「家まで送るって言わなかったっけ?」

「家までとは言ってない」

「じゃあ、今言った」

一駅分の乗り越し料金を払って、私と一緒に改札を通り抜けたイチくんは、なんだか楽しそう。

私が住むところは比較的古い家が多くて、田んぼや畑も多い。

イチくんは珍しそうな顔で周りを眺めながら私の前を歩いていた。

家までの道の途中で町の掲示板を見たイチくんが立ち止まり、「あ」と声を漏らした。

花火大会のポスター。

学校の近くの河川敷で今年も開催される予定らしい。

「来週か」

ぽつり呟くイチくんの声に、私も頷く。

そういえば、みんなで海に行った時にも花火大会の話をしたな……。

あの時、イチくんは私に何か言いかけていた気がするけれど。
その先をまだ聞くことは出来ていない。

大した話じゃなかったってことなのかな……。

「「あの、」」

顔を上げたのは、たぶん同時。

「……」

「……」

2人の声が重なって、お互いに出かかった言葉が喉に詰まる。

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