お日様のとなり
今の言葉は、もしかして私に言っている……?
男の子が立ちあがる。
どうしてそんなに嬉しそうなのかは分からない。
あろうことか、あっけにとられている私の腕を掴み、そのままぐいっと引き寄せてきた。
「ひゃ……っ」
あまりの勢いで引っ張られたので、そのまま男の子の胸に飛び込んでしまい、つい上ずった声が出てしまう。
男の子の制服からは柔軟剤のような、優しい良い匂いがした。
なんて、悠長に匂いを嗅いでいる場合じゃないだろう、私。
「ご、ごめんなさい」
「あっぶな。でもラッキー。思わず抱きしめちゃった」
「う……」
男の子にそんなこと言われたことのない私は嫌悪感でいっぱいになる。
この人、軽い。
どんと胸を跳ねのけて離れようとするけれど、全く怯む様子のない男の子は、ニヤリと笑って私の腕を掴んだまま離してはくれなかった。
「こっち、付いて来て」
「え?えぇっ?!」
そのまま校舎に向かって走り出す。
へ?ちょっと、何?
何が起こってるの……?
わけも分からず私はだた引っ張られるまま。
目の前の男の子の歩幅に合わせて必死に足を動かす。
校舎に入ったにもかかわらず、彼は走るスピードを緩めない。
バタバタと木製の床を蹴る2人分の足音が響いた。
「ごめん、ちょっと通して」
悪気の感じられない、それどころか少し楽しそうに聞こえる男の子の声。
廊下に出ている他の生徒の間をびゅんびゅんすり抜けて、抵抗することを諦めた私は大人しく後ろを一緒に走り続ける。
「あ、大蔵……!」
その途中、よく知った顔とすれ違い、その人物に目を丸くされた。
「おい、どこ行くんだよ」
「わ、わかんない……っ」
「はあ?!」
私だって聞きたいよ。
この人は一体、私をどこへつれて行こうとしているのか。