お日様のとなり

「あ、あれ私の家」

歩いていると近くまで見えてきた見慣れた屋根を指差して、イチくんに知らせる。

「そっか。じゃあ俺帰るね」

「うん、こんなところまで送ってくれてありがとう」

お礼を言えば、背中を向けて来た道を戻っていくイチくん。

後ろ姿を見送っていると、何か思い出したのか「あ」とイチくんの声が聞こえて、くるりと振り返る。

忘れ物?

と、そういえば、ここまでの電車賃渡すのを忘れていた。

鞄から財布を出して、向かってくるイチくんに私から走って行く。

「イチくんお金だよね?」

「は?違うし」

何言ってんの?と言いたげな、不機嫌な顔をされてしまった。

違った。
それでも返さなきゃと、イチくんの手に小銭を握らせる。

「いやいらないから」

「ダメだよ。海でもそう言って飲み物代受け取ってくれなかったでしょ?」

うーん、と悩んでイチくんはしぶしぶポケットにお金をしまってくれた。

「みあって意外と頑固だよね」

「意外とって……お金は大事だよ」

「はは、なんかそれどっかで聞いたことある」

< 82 / 207 >

この作品をシェア

pagetop