お日様のとなり
イチくんとの距離が近すぎて顔から手が離せずにいる私の耳には、ゆっくりと階段を降りてくる足音が聞こえて。
「これ、電子辞書返す。俺が急に声かけたせいで、ごめんな」
言いながら、前髪の辺りをくしゃりとひと撫でした。
大蔵は昔からそうだった。
感情を言葉で表現するのが苦手で不器用。だからこうして私の頭を撫でて思いを伝えようとするところは、小さな頃から変わってない。
そして、大蔵の足音はどんどん小さくなっていった。
その後に続くパタパタと聞こえる軽い音は、きっと苑実の足音。
「みあ平気……?」
心配するような声にこくこくと頷けば、躊躇いがちに苑実の足音はその場を離れていく。
「……イチくん」
「ん?」
「そろそろ下ろして」
そうじゃないと、心臓がうるさくて今にも口から飛び出してしまいそう。
密着した身体から、鼓動の速さや大きさがイチくんに伝わるんじゃないかと思うと、落ち着けたいのに落ち着けない。
それなのに。
「下ろしてもいいけど、それは保健室についてからね」
一定の振動が身体に響いて、イチくんが歩き始めたことを知る。
どうしてわかったんだろう。
鈍い痛みが、徐々に増していることを。
私が足を捻らせてしまったことを。