お日様のとなり

落ち込んだ気持ちを自分で切り替えるのは難しい。

でも。

「俺もこれから帰るとこなんだけど、みあも一緒に帰る?」

そう言われただけで、心が弾んでしまう私は、単純だ……。

「うん、帰る」

お互いの下駄箱で、上靴からスニーカーに履き替える。

昇降口で待ってくれているイチくんに駆け足で近付いて行けば、ふわりと笑って迎えてくれた。

あ、まただ。
また、心臓がおかしくなる。

苦しいのに、嫌じゃない。
この感じはもう何度も経験しているのに、原因が未だに分からない。


ゆっくりとイチくんが正門に向かって歩き出すのを、私は小走りで追いかけて、そっと隣に並んだ。

イチくんの隣を歩くのは嬉しい。

イチくんが傍にいると時々落ち着かないけど、イチくんが笑ってくれるとほっとする。

イチくんの優しい言葉にあったかくなる。

でも、イチくんは……?

イチくんが本当に隣にいてほしい人って……?

考えたくないのに、思い出してしまう。

気付いてしまったのに、知らないふりをしている私はきっとズルい人間。


明日は花火大会だ。

イチくんは私を誘ってくれたけど、一緒に行く相手が本当に私で良いのだろうか。

だからといって、今更断られるのはとても悲しい。

「もう痛くない?」

駅までの道を歩いていると、イチくんが下を見た。

捻挫した足を心配してくれているんだろう。

「うん。もう全然、痛くない」

だから、花火大会行くのやめようなんて、言わないでね。

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