壊れるほど君を愛してる
カラオケで皆が騒いでいる間、俺は征也と話していた。
「俺の恋と家庭事情が特殊なんだよ」
そう言うと、征也はどこか遠くを眺めた。
「ここは皆が居るから教えないけどね」
そう言って微笑む征也に俺は笑って頷いた。
しばらくして、俺と征也はカラオケから抜けて、俺の家へ向かった。俺の部屋で征也と話すことにした。
「俺の両親、父の親が考えた戦略結婚だったんだって」
「戦略結婚?教師と秘書って釣り合わないよな?」
さっき言っていた征也の発言を思い出すとおかしいのだ。ただの教師と大企業の秘書なんて釣り合わないはずだ。
「祖父が元県知事なんだよ。それで、母の会社の社長と繋がっていたんだ」
「えっ……お前ん家、すげぇな」
「いや、それと比べたら俺は何も出来ない馬鹿だよ」
家族がそんなに出来る奴だと自分も頑張らなくてはいけなくなる。家族の期待を反れないように生きて行くしかないのだろう。
「父は家では明るい笑顔も見せないし、母には敬語なんだよ」
征也の家は普通の家庭と違って冷たい空気が漂っているらしい。
「そんな父がコンビニに若い女の子と抱き合っているのを見たんだ」
俺はその言葉を聞いて飲んでいた麦茶でむせる。
「父の笑顔が見たことないくらいに明るい笑顔だったんだ」
その様子を見ていると、父にバレてかなり狼狽えたらしい。その女の子は父が前に勤務していた中学校の子だった。
「まさか、父が生徒に手出すなんてあり得ねぇよ」
「うわぁ、ヤバいね……」
「父がその子を大切にするのは秘密があったんだよ」
「秘密?」俺が聞き返すと、征也は言った。
「その子、病気なんだって。絶対に治らないらしい」
父は征也にだけ秘密を明かしてくれたらしい。目の前で倒れた少女を不思議に思って養護教諭に聞くと、酷い病気になっていたらしい。
「その子の願いのために必死に隠してさ。ついには恋しちゃうわけ。すごいよね、異様に愛し合ってるからファザコンにしか見えない」
『あの後輩なの?』
―――お前が好きだとか言う馬鹿女は……。
最近、聞いた声が頭に浮かんだ。声はたぶん、光一のものだろう。
「いろいろ複雑なんだね、この世は」
俺がそう言うと、征也は隣で頷いた。
――さよなら……。
女の子の声が頭に響いて、俺は頭を押さえる。
「おい!翔!」
「うっ……なんか、ぼんやりと思い出してくるんだ」
「失われた記憶?」
「うん……」
――先輩……。
目の前は揺らいで、俺は意識を失った。