壊れるほど君を愛してる
目の前には窓のサッシに座る少女が居た。俺はその子に手を伸ばしていた。
――先輩、さよなら……。
顔がボヤけて見えない少女は、そのまま後ろに倒れて落ちて行った。
「ああぁぁ!!」
目を覚ますと、俺はベッドに居た。隣で焦った顔をした征也が居た。
「翔、大丈夫?急に叫んで起きて、汗がすごい……」
そう言われて見ると、俺の体は汗に濡れていた。征也はタオルで俺の体を拭いてくれた。
「今日は学校が休みで良かったね。翔、なんか怖い夢見た?」
「うん……」
夢のことを思い出し、征也に教えた。あの状況に見覚えがあったのはなぜだろうか。
「今日は部活ある?」
「いや、無い」
征也は簡単なご飯を机に並べた。いや、目玉焼きと味噌汁とご飯は俺からしたらハイレベルなものだ。
「征也って、料理出来るんだな」
「母さんにこれぐらいは出来るようにしろって言われたんだ」
征也の家庭事情を聞くと、すごい衝撃を受けられる。俺は母しか居なくて、いつも働いていて不在なのだ。それと比べたら征也とは大分違うだろう。
「えっ、親は大丈夫なの?早く帰らなくて」
「別にいいけど、ちゃんと勉強しろだって」
いかにも秀才家の台詞だ。俺は目玉焼きをナイフとフォークで食べる征也をただ呆然と眺める。
「征也。俺、中学の記憶が無いんだ」
「ああ、光一達から聞いてたよ」
「体育祭だけ強く残ってるんだよね」
「へぇー」
会話が終了した途端、征也は「あっ」と声を出した。
「翔が見た怖い夢って、記憶の一部じゃない?きっと、翔が記憶を無くした原因かもしれない」
「えっ……」
「なんか、辻褄が合いそうだから」
あの夢が俺の記憶の一部だとしたら相当怖いものを見たんだろう。少し体が震えてきた。
「翔、これから一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、俺は帰るよ」
そう言って、征也は自分の荷物を持つ。
「じゃあね、翔」
「じゃあな」
俺は征也を見送った後、自分の部屋に戻った。そして、俺はあの本を開いた。