壊れるほど君を愛してる
本と記憶の謎
今日もあの本に手を伸ばした。昨日は優樹と一緒に遊んでいて読む暇が無かったのだ。
本を開こうとした時、電話が鳴った。元カノからだった。
「もしもし?」
『あっ、翔。今日、会えないかな?』
「えっ、でも優樹は……」
『中学校の話をするだけだから安心して。あの本の感想も聞きたいから』
「うん、分かった」
これから会う場所である飲食店の名前を告げられて、電話が切れた。俺はただ俯いた。
急いで着替えて待ち合わせの飲食店に入ると、既に元カノの咲花(さな)が待っていた。俺は咲花が居る席に座った。
「咲花、お待たせ」
咲花は俺に少し微笑んだ後、すぐに真剣な顔になった。
「あの話、どこまで読んだの?」
「えっと……リスカしたところまでかな」
すると、咲花はもっと険しい顔になった。俺はそんな咲花を見て戸惑う。
「なんか思い出せない?翔」
「えっと……」
夢の中の話とつい最近思い浮かんだことを話した。
「えっ、あの子、目の前で落ちて行ったの?」
「夢だから現実かどうかわかんねぇだろ」
「部活前のことも本と辻褄が合うわ」
「えっ?」
咲花の言葉に俺は耳を疑った。あの本が俺の記憶と関係あるのか。
「窓を開けて誰かを呼ぶように叫んだこと覚えてない?記憶が無くなっていても、何か感じることはあるでしょ?」
「うーん……」
あの本を読む時、なぜか主人公の目線ではなく、彼だと思われる目線で想像していた気がする。窓を開けて叫んだような気もする。そのことも咲花に言った。
「やっぱり、変な読み方してると思った」
「えっ、何でこの本を読んで俺の記憶と合うなんて思ったの?」
「それは最後の展開を読んでからにした方が良い。ネタバレされると嫌でしょ?」
――おい!
俺と似たような声が誰かに向かって言うように叫んだ。急いで窓を閉めたのが思い浮かんだ。
「……翔!」
俺は名前を呼ばれて気が付いた。目の前で咲花が怒った顔をしている。
「何でボケーとしてるの!なんか思い出せた?」
「記憶か分かんないけど、窓から叫んだのが思い浮かんだ」
「そう、それ貴重な記憶の一部!」
かなりの勢いで言われて、俺は呆然とする。
「ほら、本と似てるでしょ?」
「いや、気のせいだろ?」
呆れ顔で俺を見る咲花。そんなに怒らなくていいと思うが。
「あっ、もう塾の時間だ!ごめん、もう帰るね」
「うん、じゃあな」
去って行く咲花を見た後、俺はこっそり持ってきた本を開いた。