壊れるほど君を愛してる



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世界はあまりにも滑稽で無様で理不尽だ。誰もが好きな人と幸せになれることは許されない。誰かと愛し合うには、誰かが誰かを挫折しなければならないのだ。


今日も彼を避けながら日々を過ごす。会いたいけど、会うことは許されない。それは、分かっていた。


どんなに嫌われても、彼が好きなのだ。愛するほど人は歪む、それもあり得ない話ではないだろう。


絆創膏が付けられた手首を必死に隠す。体育のダンスで男子と一緒にやる時は本当に焦った。汚いとか言われるのが嫌だからなのである。


彼を避け続けて、もう十二月になった。始めの週からほとんどの人が休んでいて、学級閉鎖になった。それがとても喜ばしいことだった。


学級閉鎖の間、私は夢を見た。彼と二人で歩いているところを。目が覚めたら、涙が溢れてきたのだ。それで、少しは期待してしまうのだ。


そして、学級閉鎖が終わった次の週。今週も彼と会うことは無かった。


次の週、委員会で先輩達に笑われて酷く傷付いた。廊下を通る度に笑われて嫌だった。


我慢して、やっと終業式になってくれたのだ。ただ話を聞いているだけ。彼の顔も見ることが無いから安心した。


やっと、安心した冬休みがやってくる。それでも、彼のことを考えて胸が苦しくなった。



*****



俺は切りの良いところまで読んで立ち上がり、会計を済ませて外へ出た。外は凍えるように寒かった。


主人公は凍えるような寒さの中、必死に噂を耐えてきたのだろう。そして、一度だけ腕を切り裂いてしまった。あの状況だと死にたくなるのは分かるような気がする。


もうすぐでクリスマスか。この主人公はどんな風に過ごしていたのだろうか。征也は無事に楽しいクリスマスを送れるのだろうか。色々気になって仕方がない。


最近までは記憶を取り戻そうとは思えなかった。だけど、なぜだろうか。もうすぐでクリスマスと盛り上がる煌めく街のせいだろうか。無くした記憶を取り戻そうと思えた。


どんなに残酷な過去でも構わない。ただ知りたいのだ。


自分の奥深くに隠された記憶を、ただ知りたいだけなのだ。



――翔……どうして、壊れちゃったの?



咲花の声が頭を巡る。確か、記憶が無くなってからすぐに別れを告げられた。咲花のことなんて全く分からなかったので適当に返事してしまった。


別れを告げる咲花の顔はとても切なそうだった。そんな彼女の顔を見ても俺は何も思わなかった。惚れることも無かったのだ。


早く家に帰って勉強をしよう。来年から受験生なのだから。



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