壊れるほど君を愛してる
「征也、父さんはどうしてるの?」
俺は何気無く聞いてみた。すると、征也は困った顔をした。
「父さんは仕事があるって言ってたけど、たぶんあの中学生と一緒だ」
あの中学生というのは、征也の親父が手を出している生徒のことだろう。
「父さんはいつも家だと謙虚過ぎるのに、あの子の前だとぐいぐい行くんだよな。本当、あり得ねぇ話だな」
聞くところによると、征也の親父は物静かで謙虚で気弱な男らしい。
「翔、お前こそ記憶はどうなった?」
急に征也から話が振られて戸惑った。みんなと遊んでいる優樹を見た後、俺は口を開いた。
「元カノと話したんだ。そしたら、俺が読んでる恋愛小説に謎が隠されているって言ってきたんだ」
「えっ……恋愛小説、読んでるの?」
「優樹に進められてな。読む度に何か浮かぶんだよね」
「何か浮かぶって?」
「その本のストーリーと似たようなこと。いつもその本の主人公からは別目線っていう感じなんだ」
征也は顔を歪めて「意味がわかんねぇ」と呟く。俺もよく分かっていないけど。
「結局、最後まで読んだの?」
「まだ……」
「読んだら何か分かるもんかな……。あの夢に繋がる何かがねぇ……」
あの夢というのは、征也と一緒に居た時に見た夢だった。目の前で少女が飛び降りる残酷な夢だった。
「お前の過去なんて知らねぇから、そこら辺の奴に聞けばいいじゃん」
「光一に聞いたけど、記憶を無くした原因は知らないらしい」
「ふーん」
俺はコップに入っている子供用のシャンパンを飲んだ。
「翔、ちょっと待っててくれない?渡したい物があるんだ」
「えっ、別にいいよ」
俺がそう言うと、征也は走って行った。少しすると、征也が戻って来た。
「翔、クリスマスプレゼントだよ」
そう言って見せてきたのは、優樹の影響でハマったアーティストのCDだった。
「うわぁ、ありがとう!」
「ラインで優樹に聞いたんだ。正解だったみたいだね」
俺はそのCDを大切に元の袋の中に仕舞った。
「お前の好きな奴って、優樹から影響されたもんしかなくね?」
「うーん。俺が昔、何が好きだったか忘れたからな」
「でも、何でサッカー部?優樹は卓球部だよね?」
俺がサッカー部に入ったのは、入学したばかりの部活見学で見た影響だった。
『やってみない?』
先輩にそう言われてやると、自分でも驚くくらい手慣れた感じでやれた。
――翔、パス!
そんな声が頭の中に過った。その声はとても懐かしく感じた。
俺はサッカーが好きだったのかもしれない、そう思ってサッカー部に入ったのだ。
「へぇー、不思議な話だね。あっ、もう九時じゃん!」
征也は時計を見てそう言った。
「そろそろ帰ろう」
俺はそう言って、先に帰ろうとする。
「じゃあね、翔」
俺は征也に別れの言葉を告げて、先に帰って行った。