壊れるほど君を愛してる
大晦日の夜。俺は光一と一緒に神社へ訪れていた。神社はたくさんの人で混み合っている。
俺らは屋台のおじさんに甘酒を飲んで、年越しまでの時間を潰していた。
「何も、こんなに早く来なくて良かったんじゃないか?」
光一に言われて時計を見る。まだ十時過ぎだった。年越しをするにはけっこう早い時間だった。
「暇だし、今年の話をする?」
俺がそう言うと、光一は笑った。
「今年はあの後輩しかねぇだろ?お前に一途って笑えるな!」
気が付いたら、俺は光一の胸ぐらを掴んでいた。
「翔……俺、なんか言った?」
訳が分からないと言うような顔をする光一から手を放した。俺は「ごめん」と謝った。
「もしかして、翔……好きなの?」
「ちげぇよ。もしも俺らの勘違いだったら最悪だって思ったの」
「そうなのか?」
俺の言葉に首を傾げる光一に少し腹が立った。
「本当に俺のこと想って無かったら、俺らは超酷い奴なんだぞ?俺らはアイツの人生を潰した。殺したんだよ」
幸せそうな人の人生を潰すということは、人殺しと変わらない。結局は人を傷付けたことに変わりはないのだから。
「お前、偽善者?」
「いやぁ、考えてみただけだよ。忘れていいよ」
別に俺は彼女は好きではない。当然知らないので、嫌いだとは思わない。でも俺は、ただの他人にここまで深入りしてるなんておかしい。馬鹿みたいに思えてきた。
俺が甘酒を一口飲むと、光一が甘酒を飲み干して俺を見つめた。
「お前には彼女がいるんだろ?」
「いるけど、別に何も想ってない。告白されたから適当に付き合ってあげてるだけだ」
自分の彼女のことなんか何も想っていない。興味も無いし、ただ付き合ってあげてるだけだ。
「お前って、結構最低だな」
「まぁな。好きな人が出来たら別れるし。出来ねぇと思うけど」
「そっか」
時間が過ぎるほど、人ゴミが多くなっていく。
俺は年越しの時間まで光一と語っていると、年越しカウントダウンが始まっていた。
「七、六、五……」
俺も光一と一緒に大声で言った。近くからは女の子の声も聞こえた。
「三、二、一!」
――あの子はどうしているんだろうな。
「明けましておめでとう!」
その声が壮大に響き渡った後、俺は近くあの女を発見したのだ。彼女も驚いた様子だった。
話し掛けてみよう、そう思った時にはもう彼女は居なかった。
不思議な一年のスタートだった。