壊れるほど君を愛してる
もう来てしまった卒業式。俺は他の学年よりも早くこっそりと学校に行った。最後に校舎を見たかったからだ。
俺は南校舎を中心に眺めていた。理科室や家庭科室。色んな教室達ともうお別れなんだな。
俺は三階に上がると、目を疑う光景がそこにあった。
あの女が居たのだ。
少し短くなったようにも思える髪を下ろし、窓を開けて外を眺めている。
俺は嫌な予感がして、彼女のところに急いで駆け寄る。彼女は驚いた顔で俺を見て微笑んだ。
「先輩、色々とすみませんでした」
涙目になった彼女は俺にそう言った。心無しか、彼女の顔が少し赤く染まっているように見えた。
彼女は窓のサッシに腰を下ろした。
「先輩、ここに居ない方はいいですよ……」
彼女は切なそう顔で言った。俺の嫌な予感はそこで的中した。
「先輩、さよなら……」
気付いて手を伸ばした頃には、君は真っ逆さまに落ちて行った。
「おい!」
どれだけ手を伸ばしても届かない。彼女の涙が空に吸い込まれる。
真下を見ると、駐車場の一部分が赤く染まっていた。
微かに香る鉄のような血の匂いと君の残り香が混ざって噎せ返った。
「ああぁぁぁ!!」
俺はその場で泣き叫んだ。
「俺のせいだ……」
俺は小さく踞った。
「莉奈……!!」
初めて呼んだ君の名前。この名前で呼ぶのも最初で最後なんだろう。
俺の叫び声を聞き付けた先生達が窓の真下を見て目を見開いていた。一部の先生が救急車を呼んだり、俺を抱えて歩き出した。
「あああぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ俺を先生達は悲しい目で見ていたのが分かる。
そして、卒業式は中止になった。
俺は精神科に連れて行かれた。入院させられることになった。
「俺のせいだ、俺のせいだ、俺のせいだ……!!」
ずっと泣き叫ぶ俺をお母さんが泣きながらいつも抱き締めてくれた。
「お前のせいじゃない」
光一達がそう言ってくれても、俺は自分を許せなかった。
「翔、何で壊れちゃったの……?」
咲花は泣き叫んで暴れる俺を見てそう呟いた。
そして、心理治療って奴で俺は記憶を忘れさせられたんだ。今までのことを全部忘れてしまったのだ。