壊れるほど君を愛してる
「休憩!」
部長がそう言ったのを聞いた後、俺は爽と一緒に体育館の隅に座った。
「西宮さんって、どんな感じなの?三年ぐらい経つと思うから姿も変わってるだろ?」
「アイツならいつもギャラリーでサッカー部を見てますよ。最近は見掛けねぇけど」
いつも見ていたんだ。言葉では言えないけど、理由は大体が想像つく。
「アイツはいつも独りで居ますよ。見ていると、いつも上の空って感じで、みんな話し掛けないんですよ」
「そっか……」
「でも、アイツの親戚がこの学校の理事長らしいですよ」
「えっ?」
「だから、先輩も西宮も特権で入れたんじゃないんですか?」
あれは、莉奈の親戚だから俺に手を差し伸べたんだ。俺が莉奈のことで思い詰めていたから、あの高校に招待してくれたのか……。
「でもさ、久しぶりに街ですれ違ってぶつかった時は笑えました」
爽が急にそんなことを言い出してきて俺は驚いて目を見開く。いつのことだったか思い出せない。
「先輩が可愛い笑顔で『すみません。僕が前を見てなかったせいで……』あれは笑えましたね。かなりピュアになったんですね」
「似たようなことを優樹に言われたばかりだよ……」
記憶を無くした直接の俺は幼稚園児のようなピュアな可愛い男の子になっていたと思う。今はその時を思い返すほど恥ずかしくなる。
「西宮と委員会が一緒なんですよ。俺がアイツに話し掛けると、身構えるんですよ。先輩に近い人間だから気が引けないんでしょう」
莉奈はまだ俺に警戒してるのか。話し掛けたらすぐに逃げて行きそうだ。
「先輩、ここは勇気を出して理事長に会いましょう」
「はっ、何で?」
「西宮のお祖父さんだから」
さすがに理事長に会う必要は無いと思う。それなら俺は探す、俺は爽にそう言った。
「じゃあ、俺が呼んで来ようか?」
「えっ、いいの?」
「怖がると思うけど、大丈夫だろ。アイツも素直なところがあるからそこはちゃんと行くさ」
爽は俺よりも莉奈のことを知っているはずだ。二人は小学校からずっと一緒だったらしいからな。
「じゃあ、お願いするよ」
「オッケー」
交渉成立したところで休憩時間が終わって部活が再開された。ギャラリーの方を見ても、君を見つけることは出来なかった。