壊れるほど君を愛してる
三月になった頃。彼女は悲しそうに空を見上げることが多くなった。
ある日の昼休みでのこと。彼女は今日も切なそうな顔で空が見上げていた。
「どうしたの?空なんか見て」
「あっ、綺麗だなぁって」
俺も一緒に空を見上げてみる。別にそこまで綺麗ではないけど、もうすぐ春だなって思う。
横を見ると、彼女が少し微笑む。この笑顔を見ると胸が苦しくなるのはどうしてだろうか。
「先輩、もうすぐで今年度が終わりますね」
「そうだなぁ、冬は色々あったからな。あっという間だな」
そう言って俺が笑うと、彼女も笑った。だけど、その笑顔は少し切なそうに見えた。
その切ない笑顔で彼女はまた空を見上げる。遥か遠い彼方を見ているような目だった。
「ねぇ、莉奈」
俺はあるお願いを彼女にすることにした。彼女は首は傾げて俺を見る。
「俺ん家に来てよ。夕飯がいつもコンビニはキツいな」
「でも、お母さんは……」
「いつも仕事してるから居ないよ。作ってくれるのは年に二回くらいだよ」
「そっか……」
彼女はそう呟いて、また空を見上げた。何で君は、そんな悲しい顔をするのだろうか。
「料理には自信ないけど、行きます。先輩が宜しいのなら」
彼女は笑顔でそう答えてくれて嬉しかった。俺は優しく笑って頷いた。彼女は嬉しそうな顔をした。
「でも、お父さんが一人になる……」
「えっ?」
俺が聞き返すと、彼女は俯いて話し出した。
「……私は両親が離婚してお父さんと二人で暮らしているんです。可愛い弟はお母さんが連れて行きました……」
俺は彼女の話を聞いて驚いた。俺の家と似ていたから。
「俺も、離婚して母さんと一緒だよ。兄は父さんに連れて行かれた」
「そうだったですね……」
「やっぱり、似た者同士だな」
「そうですね……」
彼女は俺の言葉に頷くと、小さく微笑んで空を見上げた。俺は良い提案を思い付いた。
「俺が莉奈の家に行く。一人ぼっちって、寂しいだろ……?」
俺は素直に思いをぶつけてみた。彼女は一瞬驚いた顔をした後すぐに微笑んだ。
「多分、良いと思いますよ。お父さんが少し驚くかもしれません」
「まぁ、年頃の女が家に男を上げたら親は驚くだろうな」
俺の言葉に彼女は笑った。まさに正論なのだ。女が男を家に連れて来たら親が驚くのは当然のことだ。
「じゃあ、今日から一緒に帰ろう」
「お父さんに断られるかもしれないですけど」
「分かってる。ちゃんと仲良くしてやるよ」
二人で顔を見合わせて笑っていると、二人の仲を裂くようにチャイムが鳴った。