壊れるほど君を愛してる
部活が終わり、俺らは一緒に莉奈の家へ帰ることになった。
「お父さんが怒らないといいな……」
彼女は心配そうに呟いた。
「お父さんって、怖い人?」
「全然です。むしろ弱々しい感じです」
弱々しい感じなら何も口に出せないと思うから大丈夫だと思う。俺は彼女の手を掴んで歩いた。
最近はよく見る莉奈の家に着いた。俺は彼女に付いて行く。
「ただいま」
「……お邪魔します」
俺がそう言うと、誰かが急いで玄関に来た。メガネに少し跳ねた髪をした莉奈のお父さんだった。
「えっ……莉奈?」
戸惑っているお父さんにお辞儀をして自己紹介をする。
「俺は藤田翔です。よろしくお願いします」
「えっ……あの翔君?」
彼女のお父さんは恐る恐ると俺に聞いてきた。俺は何のことが分からず、首を傾げた。
「……莉奈のせいで記憶喪失になった子だよね?」
「そうです。無事に記憶を取り戻し、莉奈に謝罪をして仲良くさせてもらっています」
「でも……莉奈のことは恨んでないのか?」
「いえ、俺のせいで莉奈を傷付けてしまったので……」
「そうか。入りなさい」
彼女のお父さんがそう言って、俺らは彼女の家に上がった。
椅子に座って話をすることにした。彼女は俺の隣に座った。
「何で君はここに訪れたの?」
俺は彼女のお父さんに聞かれて考えた。自分の家庭事情を話すしかないと思ったので、俺は口を開いた。
「生まれて間もない頃に両親が離婚して、兄と離ればなれになりました。俺とお母さんで暮らすことになったのですが、お母さんはいつも仕事で家に居ないんです。だから、寂しくて……」
すごく寂しかった。記憶が無くなった後も無くなる前も、ずっとお母さんが居なくて寂しかった。お母さんとまともに話したのは、幼少期と俺が精神科に入院していた頃だけだった。
いつも一人だったことを思い出して、涙が出そうになった。彼女の前で泣くなんてしたくない。彼女のお父さんにも弱いと思われるから。それなのに涙が溢れてきてしまう。
「……翔君」
彼女のお父さんが口を開いて、俺はお父さんを見る。彼女のお父さんは優しく微笑んでくれた。
「寂しいなら来ていいよ。“春休みまで”ならね……」
「はい、ありがとうございます」
なんか結婚するために両親に挨拶をしに行くみたいな感じでとても緊張した。だけど、彼女のお父さんが優しくて緊張が溶けた。
俺は夕飯を三人で色んな話をして食べた。お風呂を借りさせてもらった。俺は帰ろうと支度をすると、彼女のお父さんが止めた。
「泊まってもいいよ。部屋が余っているから……」
そう言われてその部屋に入ると、俺はなんとなく分かってしまった。埃を被った机とサッカーボール。ここには弟君が居たのだろう。
俺はやけに綺麗になっているベッドで寝た。ベッドだけ綺麗なのはお父さんのおかげだろう。
彼女の弟君の遺影が微かに残るこの部屋を借りて、俺は眠りに落ちた。