壊れるほど君を愛してる



終業式も離任式も過ぎて、俺らに春休みが訪れた。俺は家に帰ろうとしていた。


「莉奈、俺は家に帰るよ。バイトするよ」


俺がそう言うと、彼女は悲しい顔をした。俺は抱き締めて、彼女を励まそうとした。だけど、彼女は泣いてしまう。


「先輩……」


「どうしたんだよ、春には帰ってくるから」


俺がそう言っても君は泣き続けた。女子に泣かれるのは初めてのことでどうやって受け止めていいか分からない。


俺が離れると、彼女は俺を潤んだ瞳で見た。


「じゃあ、また新学期でな」


俺がそう言うと、彼女は静かに笑った。その笑顔はとても綺麗だった。


「じゃあ……先輩、さようなら」


「うん、じゃあな」


俺はそう言って帰る方向に体を向けた。


――先輩、さよなら……。


莉奈が落ちる瞬間を思い出して嫌な予感がした。振り返っても彼女は居ない。俺は沸き上がる不安と焦りを覚えた。


また君が消えてしまいそうな気がした。もう会えなくなるような気がした。


周りを見たって、君はどこにも居なくて、俺はただその場で立ち尽くした。



俺は仕方なく家に帰った。春休みはバイトをしようと思っていて、既に頼んでいたのだ。


大学に行こうとは思えなかった。とにかく働けば、金はそれなり得られるだろう。


俺は荷物をまとめて、バイト先へ行く準備をした。


バイト先は条件もかなり良い京都のホテルだった。ホテルの一室を借りて住むことが出来るから俺にはピッタリだと思った。


家で眠った後、朝早くからある電車を乗り継いで京都へ向かった。道中はずっと暇で、本を読んでいた。あの莉奈が書いた懐かしの本だった。


作者名を見てみる。『夢宮瑠奈』と書かれていた。如何にもペンネームらしい可愛い名前だった。



俺は仕事に慣れるのは早かった。チェックアウトや部屋を片付けたりした。慣れると簡単なことだった。


「今日も良い働きっぷりだね」


このホテルのオーナーである琉晴(りゅうせい)さん。いつも明るく話し掛けてくれる。


琉晴さんのおかげで楽しい春休みを過ごすことが出来た。




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