壊れるほど君を愛してる
暑い京都から帰ってくると、とても寒く感じた。これが春なのか分からなくなる。
始業式の朝。玄関の扉を開けると、優樹が来ていた。俺を見て嬉しそうに笑う。
「やっと帰って来てくれたよ!早く莉奈ちゃんのお迎えに行こう!」
「はいはい」
優樹は俺との数日ぶりの再会にテンションが上がっているらしい。俺にしたら、そのテンションは大迷惑だ。
莉奈の家に着いてインターフォンを鳴らす。しかし、応答が無い。いつもは「はーい」と軽く返事をしてくれるはずだ。
何回もボタンを押しても返答は無し。家にはお義父さんが使っている車も見当たらず、人気もしない。
「……翔?」
「莉奈……莉奈……!」
その名前を何度呼んでも誰も返事はしてくれない。
「莉奈……!」
「やめろ、翔!」
ずっと呼び続ける俺を止めに入る優樹。俺は感情的になって涙を流していた。
「だって、莉奈……」
「分かんないなら爽に聞けばいいだろ?」
「莉奈……」
優樹に手を引かれ、学校に連れて行かれた。
放課後、俺は爽のところに向かった。すると、他の男子と話している爽の姿があった。俺は話し掛けてみる。
「爽!莉奈のこと、なんか知らない?」
そのことを聞いてきた俺に驚いたのか、爽は目を見開いた。爽は俯いて、口を開いた。
「西宮は……引っ越した」
「えっ……」
「お父さんの転勤が原因らしいです。どこに行ったかは知らないけど……じゃあな」
爽は俺に別れの言葉を吐き捨てて、友達のところに行った。
俺は優樹と一緒に帰った。話題はずっと莉奈のことだった。
「翔、元気出せよ。きっと、莉奈ちゃんも翔と仲良くなったのに転校なんて辛いはずだから……」
優樹は俺の頭を優しく撫でた。俺を慰めてくれているのだろう。俺は優樹の優しさが嬉しかった。
「じゃあな、翔。今年も頑張ろうな」
優樹はそう言って、俺の家の前から去って行った。俺は重い足取りで家に入った。