壊れるほど君を愛してる
俺は莉奈の家へ向かっていた。莉奈も隣で不安そうな顔をしている。
これから、莉奈のお父さんに挨拶をしに行く。結婚の許可をもらえるか不安で堪らないのである。
莉奈の家は高いタワーマンションの最上階だった。
「お邪魔します」
そう言って入ると、莉奈のお父さんが走って玄関に来た。
「翔君……」
「お義父さんに挨拶をしに伺いました」
莉奈のお父さんは目を見開いていたが、優しく微笑んでくれた。
「じゃあ、中に入って」
俺は居間に連れて来られ、テーブルの前にある椅子に座った。莉奈のお父さんが目の前に座る。
「さて、翔君。君がどうしてここに居るんだ?」
「好都合のバイトがここにあったからです」
莉奈のお父さんは眉間に皺を寄せて頷いていた。
「結婚の話だろうと思っていた。僕の場合、君達みたいに想い合ってないからとやかく言えないよ。お祖父さんも君達がこうなることを願っていた」
「お祖父さん?」
俺は首を傾げた。
「僕のお父さんである莉奈のお祖父さんは西宮高校の理事長なんだよ。自分の孫のせいで壊れていく君を放っておけなかったらしい」
俺はあの病院での出来事を思い出す。優しい人だったな。
「お祖父さんが言ってたんだ。それで、もしも二人が運命の人ならば、また出会ってしまうだろう。どんなに引き裂いても出会って想い合ってしまうだろう、と……」
まさにその通りかもしれない。隣を見れば、莉奈が真剣な顔で俺を見ていた。
記憶が無くなって会うことがないはずなのに、俺は思い出して出会った。そして、海翔のおかげでまた出会えたのだ。
「お祖父さんは学校で二人が仲良くなっていくのを見ていてホッとしてたみたい。そんな時に僕の転勤だった。お祖父さんはまた二人を試そうとしていたよ」
莉奈のお父さんはそう言うと笑った。
「まさか、出会って結婚しようなんて、すごいよ。運命って本当にあるんだなって」
莉奈のお父さんは携帯を取り出した。
「許可を取るならお祖父さんにしてほしい。たぶん、驚くと思うよ」
莉奈の顔を見ると笑っていた。俺は自分の手を握り締めていた。
莉奈のお父さんはお祖父さんに電話を掛けた。
「明日に来るから、今日は帰ってほしい」
俺は莉奈のお父さんにそう言われて、ホテルへ帰って行った。
どうか、結婚させてください……。