極上御曹司に求愛されています
「もしよければ、こちらをお持ち帰りください」
慧太の取材は予定よりも二十分ほど長引いたが、無事に終了した。
この後別の取材が控えているという記者とカメラマンの二人に、芹花は持ち手がついた紙袋を差し出した。
白地に淡い灰色の文字。
事務所の近所にある和菓子屋の袋だ。
「取材の後、お茶と一緒に召し上がっていただこうと用意していたんですが、お急ぎのようですから、お持ち帰りください。昼食を召しあがる時間もないとおっしゃってましたが、次の取材先へ向かわれる車の中ででもつまんでください」
芹花は取材のあと一休みしてもらおうと、どら焼きを用意していたのだが、忙しそうな二人に無理に勧めることはせず、手土産代わりに持って帰ってもらうことにした。
これまでも慌ただしい取材に立ち会ったことがあり、その場で食べられなくても持ち帰ることができるものを敢えて用意していたのだ。
朝から取材が続き、満足に昼食をとることもできない記者とカメラマンは喜んで受け取った。
「もうおひとり取材をするので、昼食をとる時間もないんです。ありがとうございます」
男性記者とカメラマンが、嬉しそうに頭を下げた。
その間も機材をケースにしまったりとせわしなく動いている。
「どなたの取材ですか?」
取材を終え、ホッとした表情の慧太が問いかけた。
「三井先生はご存知だと思いますが、木島信託銀行の木島悠生さんです。金融界で評判の三十代ということで取材をお願いしたんです」
記者の答えに、芹花は思わず「え? 悠生さん」と呟いた。
慧太の取材の間、悠生のことを思い出していたが、まさかその名前が出るとは思わなかった。
「天羽さん、木島さんと知り合い?」
「あ……知り合い、になったばかりなんですが」
慧太や記者に、知り合いと言っていいのか悩みながら、芹花は遠慮がちに答えた。