極上御曹司に求愛されています

「高級店なんて慣れてないので、あの今日はちょっと……」
 
もじもじしながら断る芹花を気にせず、車はスムーズに大通りを進み、郊外へと向かう。

「今日じゃないとダメなんだ。きっと芹花も楽しめると思うから安心しろ」
 
なにを言っても取り合ってくれない悠生に不安を覚えながらも、思いがけず悠生と夕食を楽しむこととなり、芹花は緩む頬をどうすることもできずにいた。
 
 
芹花が連れて来られたのは、国内外で有名な高級ホテル「アマザンホテル」だった。
重要な国際会議が開催されることも多く、各国王族が訪れる際にも使われる格式高いホテルだ。
悠生は正面玄関で車を停めると、ホテルマンに車を預け、慣れた足取りでロビーを歩いていく。

「あの、悠生さん。アマザンだなんて私聞いてませんけど。ちゃんとした格好もしてないのに、どうすればいいんですか。まさかここで食事ですか?」
 
悠生に引きずられるように歩きながら、芹花は辺りを気にしつつ抵抗する。
海外からの客人や、ドレスアップした女性たちの中にはテレビでよく見る有名女優もいた。
場違いな場所に放り込まれたようで、あわあわしてしまう。

「そんなに緊張しなくてもいい。たしかにアマザンは高級ホテルだけど、誰でも居心地のいいホテルだから、すぐに慣れる。従業員もプロ意識が高いし優しい人ばかりだ」
「それは悠生さんが御曹司で子供の頃から慣れてるからでしょ」
 
芹花の困り切った声に悠生は苦笑した。

「俺が初めてアマザンに泊ったのは仕事を始めてからだ。ホテルの楽しみ方もわからない子供にはもったいないって言って、両親はここに泊っても、俺と兄さんは自宅に帰らされてた」
「え、意外です。アマザンのような高級ホテルは子供の頃から顔パスで通っていたようなイメージがあるのに」
 
驚く芹花を笑いながら睨むと、悠生はホテルの奥へと足早に歩いて行く。
迷いのない足取りを見れば目指す場所があるようだが、芹花はついて歩くのに精一杯で尋ねることもできない。



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