極上御曹司に求愛されています

紺色のスーツに白いシャツ。
そしてグレーのネクタイ。
銀行員だからかどちらかと言えば地味で、ありがちな装いだが、悠生が着ればおしゃれに見えるから不思議だ。
スープを飲み終えた芹花は、チラリチラリとその姿を眺める。
まわりにはカップルばかりだというのに、女性たちの視線の多くが悠生に向けられている。
ここはブライダルフェアなのだから、結婚を考えている相手と来ているはずなのに、悠生のことを気にしている女性ばかりだ。

「どうした? キレイな花嫁の姿に胸がいっぱいか? 星が二つの有名フランス料理店の肉料理なのにもったいない。食べないなら俺が食べるけど」
 
悠生はそう言って、ナイフとフォークを手にぼんやりしていた芹花の顔を覗き込む。

「食べます食べます。絶対に、食べます。星がふたつだなんて、それだけで胃が暴れて待ち焦がれてます」
 
芹花は慌てて肉にナイフを通した。
ほどよい赤みと香り豊かな肉汁がたまらない。

「おいしい。でも、こんな贅沢していいのかな。冷やかしみたいで申し訳ない」
「冷やかしでいいから代わりに行ってくれって頼まれたんだけど、来て良かった。普段なら断るんだけど、芹花と来たかったんだ。なんといってもブライダルフェアだからな」
「……っぐ」
 
スラスラと口にした悠生の甘い言葉に、芹花はむせた。
慌てて手元の水を飲むが、顔が熱いのはむせたせいばかりではない。
ブライダルフェアに自分と来たかったと言われて平静でいられるわけがないのだ。




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