極上御曹司に求愛されています
「もしかして、私を説得してこいとか言われた?」
きっとそうだろうと思いながら問いかければ、案の定橋口は言葉を詰まらせた。
出版社側からの強い要望に違いないと、察した。
硬い表情で芹花の答えを待つ橋口に、芹花はふうっと息を吐き出した。
「うん。わかった。竜崎さんとは会うけど、私のことは今まで通り名前も顔も伏せてもらえるようにお願いしてね」
「おー、それはもちろん。ありがとう。天羽のことだから絶対に嫌がるだろうし、どうしたものかと困ってたんだ。そっかそっか、良かった」
明らかににホッとした様子の橋口に、芹花は仕方がないなあと、笑う。
「そうでなくても今回は橋口君が苦労してるの知ってるからね」
「苦労ってほどじゃないけど、たしかにな」
法律事務所の仕事とは大きくかけ離れた仕事を突然任され、それまで縁のなかった出版社との付き合いに右往左往しているのを何度も見ていた。
面倒なことに巻き込んでしまい、申し訳なさを感じていた芹花は、今回はそのお詫びの意味も込めて竜崎楓に会うことにしたのだ。
もちろん、芹花自身もかねてから彼女のファンでありオビにコメントを書いてもらえるなんて信じられないほど嬉しい。
楓側から言われなければ、芹花の方から挨拶に伺いたいとお願いしていたかもしれない。
それに、彼女とは一度アマザンホテルで顔を合わせている。
悠生の知り合いだというし、会うことにそれほど緊張することもないだろう。
「で、急なんだけど」
アマザンで会った楓は本当にキレイだったなと思い出していた芹花は、視線を上げた。
「竜崎楓なんだけど、とにかくスケジュールが詰まっていて、今日の夕方しか時間が取れないそうなんだ。それも、撮影スタジオで十五分ほど」
「今日?」
「急で悪いな。だけど、今晩、海外に撮影で飛ぶらしくてさ、頼む」
突然のことに驚きつつ、彼女のような有名モデルなら仕方がないと納得する。
「わかった。さすが売れっ子モデルさんだね」
「重ね重ね申し訳ない。十八時にここを出ればいいし、俺も同行するから」
それまで申し訳なさそうにしていた橋口の顔があっという間に明るくなった。
声も弾んでいる。